ベンチャーキャピタルが求めるリターン
- 2021年10月27日
- 読了時間: 4分
更新日:2025年12月22日

事業がまだ軌道に乗っておらず、いわゆるベンチャー企業と呼ばれる状況にある場合、資金調達の選択肢としてベンチャーキャピタルからの出資は、優先的に検討すべき手段の一つだと考えています。
事業の初期段階は、失敗のリスクが極めて高いフェーズです。この段階で、代表者の個人保証を前提とした銀行借入を行うことは、経営判断というよりも人生を賭けた危険な選択になりかねません。万が一失敗した場合、事業だけでなく、個人としての再起まで困難になる可能性があるからです。
銀行業は、基本的にローリスク・ローリターンで設計されたビジネスモデルです。一方で、ベンチャーキャピタルは、ハイリスク・ハイリターンを前提とした投資モデルを取っています。この構造の違いを踏まえると、リスクの高い成長段階にあるベンチャー企業こそ、ベンチャーキャピタルを活用すべきだと言えるでしょう。
ベンチャーキャピタルの最大の関心事は「リターン」
ベンチャーキャピタルから出資を受け入れるにあたって、まず理解しておくべきなのは、彼らの最大の関心事が何かという点です。それは、運営しているファンドの投資家に対して、どれだけのリターンを提供できるかに尽きます。
ベンチャーキャピタルも一つの企業であり、利益を上げなければ存続できません。その利益の源泉は、投資先企業の株式などを売却した際に得られるキャピタルゲインです。多くのベンチャーキャピタルは、外部の投資家から資金を集めてファンドを組成し、その資金を用いて複数のベンチャー企業に投資を行います。
一般的には、ファンド運用額に対して年率2%程度の運用報酬を受け取り、投資が成功した場合には、キャピタルゲインの20%前後を成功報酬として受け取るモデルが採用されています。この構造を理解することは、ベンチャーキャピタルと向き合う上で欠かせません。
IRRという「逆算の論理」
ベンチャーキャピタルが常に考えているのは、いかに多くの投資家の信頼を集め、いかに投資家へのリターンを最大化するかという点です。その際、投資判断の基準として用いられる代表的な指標がIRRです。
ベンチャーキャピタルの場合、IRRで20%から30%程度、期間にして5年間で投資倍率3倍から4倍程度を目指すケースが一般的です。IRRとは、一定期間にわたって複利で運用した場合の年間利回りを示す指標です。
この目標リターンから、取得時の株価は逆算されます。例えば、5年後の企業価値が10億円と想定される場合、IRR30%を前提とすると、現在価値はおおよそ10億円を1.3の5乗で割った約2.6億円となります。これを発行済株式数で割ったものが、一株あたりの取得価格の目安になります。将来の株式売却方法としては、他社への売却や株式上場などが想定されます。
ベンチャーキャピタルは「一蓮托生」のパートナー
ベンチャー企業が生き残りをかけて必死に事業を運営しているのと同様に、ベンチャーキャピタルもまた、投資先企業と一蓮托生の立場で投資を行っています。投資先が成長しなければ、ファンドとしての成果も得られません。
しかし実務の現場では、ベンチャーキャピタル側の利益構造を十分に理解しないまま事業説明が行われるケースも少なくありません。その結果、リターンのイメージが描けず、やむを得ず投資を見送る判断に至ることもあります。
プレゼンテーションは「事業評価」ではなく「投資評価」
こうした背景を踏まえると、ベンチャーキャピタルに対するプレゼンテーションでは、「良い事業かどうか」だけでなく、「本当に出資に値するビジネス設計になっているか」という視点が求められます。出資を受け入れる覚悟があるのか、将来的に満足できるリターンを生み出せる構造になっているのか、といった問いを、自らに投げかける必要があります。
この問いに正面から向き合うことは、資金調達のためだけでなく、現時点の事業設計を見直す上でも大きな意味を持ちます。
すべてが成功する前提ではないという現実
一方で、ベンチャーキャピタルは、投資したすべての企業が計画通りに成長することを前提としているわけではありません。多くの場合、ポートフォリオ全体でリターンを設計しています。
例えば、10社に投資した場合、3社は投資回収がゼロ、4社は1倍から2倍程度、残りの3社が7倍から10倍といった形で、全体として期待リターンを確保する想定を置いています。その前提のもとで、投資額や投資対象の配分が決められています。
多くのベンチャーキャピタルと対話する意味
こうした構造を理解するためには、できるだけ多くのベンチャーキャピタルと対話することが重要です。彼らがどのようなリターン設計を描き、どのような前提で投資判断を行っているのかを知ることは、資金調達戦略を考えるうえで大きなヒントになります。
ベンチャーキャピタルの視点を理解することは、単に出資を受けるための手段ではありません。事業をどのように成長させ、どこに向かうのかを考えるための、重要な思考訓練でもあるのです。



コメント