投資家の第一印象を上げるために
- 2022年5月18日
- 読了時間: 4分
更新日:2025年12月22日

当社はベンチャーキャピタルとしての業務上、スタートアップ企業から数多くの出資のご相談をいただいています。すべての案件を詳細に検討できるわけではない中で、投資判断の初期段階において、どのような点を重視しているのか。今回は、当社が実際に資本参加してきた企業の特徴を、検討初期フェーズに焦点を当てて整理します。
ビジネスモデルは「シンプルであること」が最大の強みになる
投資検討の初期段階において、最初に確認するのはビジネスモデルの構造です。スキームが過度に複雑なモデルは、一見すると精緻に見える一方で、投資家にとってはいくつかの懸念を生みます。
理解に時間を要するモデルは、それだけで初期検討のハードルが上がります。また、利害関係者が増えることで、事業が計画通りに進む確率は低下しやすくなります。さらに、役割が分散することで、投資家としてどの部分に価値を見出し、どのように関与すべきかが不明瞭になりがちです。
このため、ビジネスモデルは可能な限りシンプルであることが重要だと考えています。ただし、シンプルであれば十分というわけではありません。そこに「新しい切り口」があるかどうかが、次の判断軸になります。
既存ビジネスをそのままなぞるのではなく、視点を少しずらすことで付加価値を生み出せているか。直線的な成長戦略ではなく、構造的に優位性を築こうとしているか。この発想の有無は、初期段階において強く印象に残ります。
投資家は「資料の完成度」より「理解のしやすさ」を見ている
投資家は日々、多くの出資提案に接しています。その前提に立つと、一つの案件に割ける初期検討の時間は、決して長くありません。実感としては、5分から10分程度で事業の本質が伝わらなければ、その先の検討に進むことは難しくなります。
実際には、非常に多くの情報を盛り込んだ、いわば説明書のような事業紹介資料をいただくことも少なくありません。しかし、文字量が多く、メッセージが複数に分散している資料は、かえって本質が伝わりにくくなります。
投資検討の初期段階では、「1ページ1メッセージ」を意識し、不要な情報を極力削ぎ落とすことが有効です。10ページ程度で、事業の魅力を10のメッセージとして伝え切る。そのうえで、詳細な数値や補足説明は別資料として用意しておく。この整理ができているかどうかは、事業理解の深さを測る一つの指標にもなります。
弱点を把握し、語れることは信頼につながる
投資家が事業を見る際、強みだけでなく、必ず弱点にも目を向けます。そして多くの場合、その弱点は経営者自身が最もよく理解しているものです。
重要なのは、それを隠すか、正直に開示したうえでどう向き合っているかです。ビジネスモデルの脆弱な部分を率直に説明し、それに対してどのような対策を考えているのかを示すことは、結果として投資家の信頼を高めます。
出資後は、数年単位でのパートナー関係が続きます。初期段階で隠された課題は、いずれ必ず顕在化し、その時点ではお互いに大きな負担となります。この点を理解している経営者かどうかは、初期面談の中でも自然と伝わってくるものです。
競合比較に対する姿勢は、そのまま経営姿勢を映す
競合の存在についても同様です。先行企業や特許の有無、同様のビジネスモデルを持つプレイヤーが存在することを前提に議論できているかどうかは、非常に重要な判断材料になります。
競合を過小評価したり、存在を伏せたまま話を進めたりすることは、投資家にとってプラスに働くことはありません。むしろ、その姿勢自体がリスクとして映ります。現実を正しく認識したうえで、自社がどこで勝てると考えているのかを語れることが重要です。
第一印象は、投資判断において想像以上に大きい
投資家に限らず、人は第一印象に大きく影響されます。投資家向けのプレゼンテーションは、多くの場合「一発勝負」です。初回の印象を覆す機会は、実際にはほとんどありません。
投資家もまた事業家であり、単なる資金提供者ではなく、パートナーとして関与する存在です。限られた時間の中で、どのようにすれば共感と納得を得られるのか。その視点で準備されたプレゼンテーションかどうかが、検討のスタートラインを左右します。
万全の準備とは、資料を厚くすることではありません。事業の本質を理解し、それを簡潔に、正直に、相手の立場で伝えること。その積み重ねが、結果として投資家との良い関係につながると考えています。