事業買収時にどんなポイントを見るのか
- 2021年3月5日
- 読了時間: 4分
更新日:2025年12月22日

事業承継のニーズは年々高まっています。その一方で、アーリーリタイアやシリアルアントレプレナーを志向する経営者も増え、事業を「引き継ぐ側」「引き継がれる側」という関係は、以前にも増して多様化しています。このような環境の中で、事業承継を検討する際に重要になるのが、引き受け側、すなわち承継者の視点です。
本稿では、感情的な相性や経営者個人の思い入れではなく、企業価値の算定に焦点を当て、承継候補者がどのような観点で企業を評価しているのかを整理します。
企業価値は「自分で決めるもの」ではない
まず押さえておくべき前提は、企業価値は自社で決めるものではないという点です。企業価値とは、あくまで第三者、あるいはマーケットが決めるものであり、承継候補者の動機や戦略によって、その評価軸は変わります。
とはいえ、どのような承継者であっても共通して確認する最低限の項目があります。引き受け側は、それらを通じて「投資として成立するか」「将来に向けた伸びしろがあるか」を冷静に見極めています。
財務内容が示す「守りの企業価値」
企業価値評価の第一歩は、財務内容の確認です。ここで見られているのは、単に利益が出ているかどうかではありません。投資回収までにどれくらいの時間がかかるのか、事業が安定的にキャッシュを生み出せる構造になっているのか、そして万が一事業が想定通りに進まなかった場合でも、どこまで投資回収が可能なのかといった点が段階的に確認されます。
具体的には、事業そのものに稼ぐ力があるかどうか、追加投資を前提とせず既存事業だけでキャッシュフローが回るのか、純負債額がどの程度で返済可能な水準に収まっているのかといった観点です。さらに、短期的に現金化できる資産がどの程度あるのかも、リスク評価の一部として見られます。
将来性が示す「攻めの企業価値」
財務内容が現在の安定性を示すものであるのに対し、将来性は企業価値の上振れ余地を左右します。引き受け側は、まず市場そのものが十分な規模を持ち、今後も成長していく分野かどうかを確認します。そのうえで、その市場の中で競争優位性を築けるか、あるいは築いていける余地があるかを見ています。
成長性のない市場や、衰退が見込まれる分野では、どれほど現在の業績が安定していても評価は限定的になります。反対に、市場の成長とともに事業を拡大できる余地がある場合、企業価値は大きく評価されやすくなります。
ポジショニングが左右する「持続可能性」
企業価値を考える上で見落とされがちなのが、業界内でのポジショニングです。引き受け側は、業界の市場構造の中で、その企業が現実的にどの位置を占めているのか、また今後どの位置を目指せるのかを慎重に観察します。
業界内の利害関係者や既存の力関係を無視してシェア拡大を狙うことは、現実的ではありません。無理なくシェアを伸ばせる立場にあるか、そしてその中で十分な利益率を継続的に確保できる構造を築けるかどうかが、長期的な企業価値に直結します。
企業価値算定の現実的な目安
実務上、企業価値の簡易的な算定方法としては、時価純資産にEBITDAの3倍から5倍程度を掛け合わせ、そこから純負債額を考慮する方法が一般的に用いられます。ただし、この方法で算出されるのはあくまで「ベースとなる価値」に過ぎません。
それ以上の付加価値を認めてもらうためには、ここまで述べてきた将来性やポジショニングを、承継候補者に正確に伝える必要があります。これらの要素は、特にベンチャーキャピタルや成長志向の強い事業会社にとって、大きな魅力として映ります。
承継候補者の選定は「市場価値」から始まる
こうして導き出された市場価値を基準に、承継候補者を絞り込んでいきます。承継の動機がどこにあるのか、承継候補者自身の財務内容や承継コストの調達方法は現実的か、そして事業を継続・拡大していく意思と能力があるか。この三点を軸に打診を進めることで、短期間で有望な候補先との交渉に入れる可能性が高まります。
事業承継こそ、投資家の視点で考える
事業承継は、単なる経営者交代ではありません。企業価値をどのように評価し、誰に引き継ぐかという投資判断そのものです。
投資家の視点に立って自社を見つめ直すことは、承継のためだけでなく、現時点の経営判断を磨くことにもつながります。その視点を持てるかどうかが、納得感のある事業承継を実現できるかどうかの分かれ目になると言えるでしょう。



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